中小規模の事業者の中には、お客様の利便性の向上や、業務を効率化するためにキャッシュレス決済を導入しようと考えている人もいることでしょう。キャッシュレス決済というとクレジットカードでの決済を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、クレジットカード以外にもさまざまな決済手段が存在します。本記事ではキャッシュレス決済と日本の現状から始め、種類と仕組み、キャッシュレス決済のメリットとデメリットを説明します。
目次
キャッシュレス決済と日本の現状
キャッシュレス決済とは、文字通り、現金を使うことなく支払いを行う方法です。本記事を読んでいる人の中にもクレジットカードや、QRコード決済といった支払い方法を普段利用しているという人もいることでしょう。キャッシュレス決済は、いわゆる物を買うショッピングで使われるだけではありません。交通系のICカードもキャッシュレス決済の一種で、交通機関を利用するときに交通系のICカードを利用すると、背後ではキャッシュレス決済が行われています。
日本では、キャッシュレス先進国といわれる近隣の韓国や中国に比べ、2016年時点でのキャッシュレス決済比率は19.9%とキャッシュレス決済の普及が遅れていました。世界のキャッシュレス事情については、「意外と知らない!?世界のキャッシュレス事情」で詳しく説明しています。
このような中、2018年に「キャッシュレス・ビジョン」が策定され、2025年までにキャッシュレス決済率を40%、将来的には80%まで引き上げることを目標に掲げました。
キャッシュレス・ビジョンが策定されたあと、日本のキャッシュレス決済率はどう推移したのでしょうか。経済産業省の「第二回 キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会 資料」によると、2019年のキャッシュレス決済比率は26.8%でした。同資料では、2018年にはクレジットカードを中心にキャッシュレス決済が伸び、2019年にはクレジットカードに加えてデビットカードや電子マネー、QRコード決済が伸びました。QRコード決済はキャッシュレス決済全体に占める割合は1%未満と小さいものの、2018年から2019年にかけて6倍に伸びています。
参考: 第二回 キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会 資料(経済産業省)
2019年には消費税増税が行われ、消費を喚起するために「キャッシュレス・消費者還元事業」という政策が打ち出され、2020年6月までキャッシュレス決済に対してポイントが還元されました。
2020年に新型コロナウイルス感染症が広がり、不特定多数の人が手で触れる現金を避け、キャッシュレス決済を利用しようという動きが世界各国で広がりました。日本にもその傾向が現れており、ニッセイ基礎研究所は2020年のキャッシュレス決済比率を29%と概算しています。
参考:コロナ禍における日本のキャッシュレス化の進展状況(ニッセイ基礎研究所)
急速にとはいわないまでも、日本でも着実にキャッシュレス決済が普及しつつあるといえます。事業者としてはキャッシュレス決済をビジネスに取り入れない手はありません。
キャッシュレス決済の種類としくみ
キャッシュレス決済と一口にいっても、仕組みはさまざまです。ICチップの入ったICカードが普及する以前は、磁気テープのついたカードをスキャンして行うキャッシュレス決済が一般的でした。ここでは近年主流のIC決済とQRコード決済について説明します。
接触型IC決済
接触型IC決済では、カードリーダーにICカードを挿入して情報を読み取り、決済処理を行います。店舗で買い物をしたときに、店舗のカードリーダーにクレジットカードを挿入して、暗証番号を入力して、代金を支払うことがあります。この支払い処理の背後では、接触型のIC決済が行われています。
非接触型IC決済
コンタクトレス決済、タッチ決済などと呼ばれることもあります。電磁誘導の仕組みを利用して、ICカードやICチップを搭載したスマートフォンを決済端末にかざすだけで決済が完了するため、事業者にも消費者にもスムーズな決済方法として利用が広がっています。交通機関を利用するときに交通系ICカードで改札を通る様子をイメージするとよいでしょう。改札でカードをかざしたタイミングで非接触型IC決済が行われています。交通系のICカードだけでなく、昨今では非接触型のクレジットカードやデビットカードの普及も進んでいます。
QRコード決済
ICカードやスマートフォンを使った決済に加えて、普及の兆しを見せているのがQRコード決済です。QRコード決済に対応している店舗で買い物をした消費者は、店舗のQRコードをスキャンして代金を入力して支払い、店舗が支払いを確認し、決済が完了します。ほかにも店舗が消費者のQRコードをスキャンして決済を行う方式もあります。QRコード決済と似た決済方法として、バーコードをスキャンして決済するバーコード決済があります。QRコード決済とバーコード決済をまとめてコード決済と呼ぶこともあります。
キャッシュレス決済の精算方法
キャッシュレス決済で消費者が支払うお金の精算方法についても見てみましょう。「前払い」「即時払い」「後払い」の三つの精算方法があります。
前払い
前払い式はプリペイド式と呼ばれることもあります。消費者はあらかじめカードなどに一定金額をチャージしておきます。駅で交通系のICカードにチャージしている、アプリからスマートフォンを使って利用するキャッシュレス決済サービスにチャージしているという人もいることでしょう。前払い方式のキャッシュレス決済は、クレジットカードのように審査を受けることなく誰でも利用できます。
即時払い
即時払いの代表的なキャッシュレス決済方法はデビットカード決済です。消費者が買い物をしたときにデビットカードで決済すると、そのタイミングで金融機関の口座から代金が引き落とされます。前払い方式と同様に、即時払い方式でも金融機関口座にお金さえあれば、審査を受けることなく利用できます。
後払い
後払いの代表的なキャッシュレス決済方法はクレジットカード決済です。消費者がクレジットカードで買い物をすると、クレジットカード会社が消費者に代わって代金を立て替えます。締め日までのカードの利用合計金額が請求日に消費者の口座から引き落とされます。買い物をする日に代金分のお金が口座になくても買い物ができるという利点はありますが、クレジットカードを作るには審査を受ける必要があり、使い過ぎには注意しなければなりません。
事業者にとってのキャッシュレス決済のメリット
キャッシュレス決済には、事業者にとっても消費者にとってもたくさんのメリットがあります。ここでは、特に事業者にとってどのようなメリットがあるのか具体的に見てみましょう。
現金を扱う量が減る
キャッシュレス化の最大のメリットはなんといっても現金を扱わなくてよくなる、または扱う現金の量を減らせることにあります。キャッシュレス決済でもミスが発生しますが、しっかりデジタルな記録が残るので、ミスに対処したり、原因を究明したりしやすくなります。お釣りの渡し間違いといったミスを防ぐこともできます。
現金を扱わないことは防犯対策にもつながります。現金が置いてなければ、店舗からお金が盗難されることはありません。また、大きな金額の現金を金融機関に入金しに行くと、途中で現金を盗られてしまう、襲われてしまうといったリスクはゼロではありません。これは心地よい業務とはいえないでしょう。
感染症の影響がまだ軽視できない中、衛生面にも気を配りたいところです。不特定多数の人が手で扱う現金の取扱量を減らせれば、感染防止対策にもなります。衛生面に気を配ることで、感染防止対策とともに、お客様や従業員のイメージアップにもつながります。
業務の効率化につながる
キャッシュレス決済と合わせてPOSレジを導入すると、決済時に販売情報が自動的にデータとして蓄積され、売上管理や帳簿処理など圧倒的に業務が効率化されます。現金を扱わない、または扱う量を少なくすることで、現金を数えたり、釣り銭を十分用意したり、金融機関に入出金に行ったりといった業務を減らせるでしょう。業務が効率化されると、本当に人手が必要な業務に人員を割り当てることができます。
お客様満足度が上がり売り上げアップにつながる
さまざまな決済手段が用意されていると、たまたま現金を持ちあわせていないというお客様が商品を買ってくれるかもしれません。また、クレジットカードが利用できれば、大きな金額の買い物をするお客様も出てくるでしょう。会計処理がスムーズに行われ、快適に買い物ができたという印象が残ればまた買い物に立ち寄ってくれるかもしれません。決済は買い物の最後の短いステップですが、お客様の購買意欲や買い物に対する印象を大きく変えるステップでもあります。キャッシュレス決済を導入してお客様満足度を上げ、売り上げアップにつなげましょう。
事業者にとってのキャッシュレス決済のデメリット
キャッシュレス決済にはさまざまなメリットがありますが、一方でデメリットもあります。ここでは事業者にとってのキャッシュレス決済のデメリットをどのように解消したらよいのかと合わせて具体的に見てみましょう。
システム導入の初期費用がかかる
キャッシュレス決済を受け付けるためのシステムを導入するには少なからずお金がかかります。
ただし、最もシンプルな構成を選んで、すでに契約しているスマートフォンやタブレット端末、インターネット回線を活用すれば、数千円のカードリーダーを導入するだけでキャッシュレス決済を利用できるようになります。最近では決済端末なしに、スマートフォンひとつでタッチ決済を受け付けられる機能も誕生しているので、対応している端末さえあれば無料でキャッシュレス決済を導入することもできます。
費用を抑えながら本格的にキャッシュレス決済を導入したい場合には、IT導入補助金や業務改善助成金といった支援制度の活用を検討するとよいでしょう。
手数料がかかる
キャッシュレス決済システムの利用には手数料がかかり、決済サービスやお客様が利用するカードの種類によって、売り上げの数パーセントが手数料として差し引かれます。売り上げの数パーセントという数字だけ見ると、高いと考える人もいるかもしれません。ただ、キャッシュレス決済には現金を扱う量が減り、業務が効率化され、お客様満足度が向上するというメリットがあることを思い出してください。手数料はこれらのメリットの恩恵を受けるための必要投資と考えると決して高い金額といえるでしょう。
社内教育が必要
キャッシュレス決済システムを導入したら、どのように決済を受け付けたらよいか、キャンセル処理はどのように進めたらよいかなど、経営者と従業員が新しいシステムについて学ばなければなりません。少なからず社内教育が必要になることは覚えておいた方がよいでしょう。また、新しいシステムに慣れる過程ではミスもつきものです。ただし、最新のキャッシュレス決済サービスは、デバイスもアプリも使いやすくなっているので、トレーニングに時間がかからず、かつ社内教育に費やした以上の対価を得られるはずです。
実際にお金が支払われるまでに時間差がある
現金払いの場合、お客様から現金を受け取るとすぐに売り上げが手元に入ります。一方で、キャッシュレス決済では、「入金サイクル」という概念があり、締め日に計算された売り上げの合計が入金日に事業者の金融機関口座に入金されます。入金サイクルについてきちんと把握しておかないと、売り上げは上がっているのに、仕入れなどに使えるお金がないといった事態にもなりかねません。
ただし、事業の資金需要を明らかにしてニーズにあったキャッシュレス決済サービスを選べば入金サイクルは大きな問題にはなりません。
本記事では、キャッシュレス決済と日本の現状から始め、キャッシュレス決済の種類や仕組み、キャッシュレス決済のメリットとデメリットを説明しました。キャッシュレス決済の導入と利用にあたっては少なからず費用はかかりますが、費用やその他のデメリットを超えるだけのメリットがあることが伝わったのではないでしょうか。本記事をきっかけにぜひキャッシュレス決済の導入を検討してください。
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執筆は2021年7月21日時点の情報を参照しています。2023年9月6日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash