飲食店開業に必要な営業許可の取得方法を解説

飲食店の運営に営業許可が必要なことは知っていても、どんな準備をしてどこに許可を求めれば良いのかなど検討する項目が多く、これから飲食店を開業したい人にとってハードルが高く感じられるかもしれません。

この記事では、飲食店の開業に必要な営業許可の取得について、営業許可の概要と申請に必要な書類、申請の流れ、検査基準などをまとめています。飲食店の開業にお役立てください。

目次



飲食店に必要な営業許可の概要

飲食店の営業許可に関しては、飲食による健康被害の発生を防止するための法律である「食品衛生法」により定められています。法令を遵守して営業する必要があり、どんな種類の店であっても営業の許可が必要です。営業許可は都道府県知事が交付し、書類審査・立入検査は保健所が行います。

営業許可書の種類

飲食店全般で必須になるのは、「食品衛生責任者」の設置と「飲食店営業許可書」の取得です。具体的な申請手続き方法については後述します。

2021年6月1日に施行された改正食品衛生法で営業許可業種の見直しにより、飲食店営業と別に許可が必要だった喫茶店営業については飲食店営業に統合され、廃止されています。

店舗を構えない場合でも営業許可が必要です。都道府県によって細かなところは異なりますが、次のような場合に別途申請が必要です。また、路上を使用する場合は警察に道路使用許可を届け出る必要があります。

  • 屋外に客席を設置する場合
  • キッチンカーなど自動車で営業する場合
  • リヤカー(引き車)で営業する場合
  • 臨時営業・臨時出店(縁日、祭礼などの行事で営業する場合)

参考:営業許可・届出の概要(東京都福祉保健局)

その他、取り扱うものによって別途必要な許可があります。主なものを以下に記します。都道府県により独自基準を定めている場合もあるため、開業予定の地域で条件を確認しておきましょう。

食品製造業の許可 飲食店営業と並行して食品の製造販売を行う際に必要となる場合があります。菓子、あん類、アイスクリーム、乳製品、めん類など、食品の種類によって要件が異なります。法令で定められた許可業種のほか、都道府県ごとに条例で定められた許可業種もあります。
酒類販売の許可 酒類を、飲食店のメニューとして提供するのではなく、開栓せずにそのまま販売する場合に必要です。
深夜酒類提供飲食店営業 酒類を深夜(午前0時以降)に提供する場合、警察への届け出が必要です。
風俗店営業の許可 接待をして飲食をさせる店舗、客席の明るさが10ルクス以下の店舗、深夜(午前0時から6時)に営業して酒類を提供し、遊興させる店舗については、警察への届け出が必要です。
動物の取扱の許可 アニマルカフェなど、動物を飼育・展示する場合は第一種動物取扱業の登録申請が必要です。

食品衛生法の改正による影響

食品衛生法は2018年に改正され、営業許可制度を含め2021年6月1日から完全施行されました。改正の主旨は食中毒対策の強化で、食品、器具、容器などの基準の国際化と事業者の衛生管理の向上を図っており、合わせて営業許可の基準が見直されました。

改正の大きな目的にあるのが衛生管理方法の国際化で、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められています。HACCPは原材料の入荷から製品の出荷までの全行程における衛生管理手法です。小規模事業者の場合、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を行うことが求められ、厚生労働省から手引書が公開されています。飲食店の届け出をクリアするためにも考え方は理解しておきましょう。

参考:HACCAPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(厚生労働省)

無許可で営業した場合の罰則

飲食店は開業前に営業許可を取得する必要があります。許可を取らずに営業をした場合、申請中でも許可書の交付前に営業した場合も無許可とみなされ、行政処分を受ける可能性があるので注意しましょう。違法な無許可とみなされると、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課されることがあります。

営業許可の申請のポイント

具体的にはどのようにして飲食店の営業許可を取得すればよいのでしょうか。ここからは、営業許可を取るための条件や必要書類、申請書の書き方についてみていきましょう。

飲食店営業許可を取得する条件

飲食店の営業許可に必要な条件は、施設ごとに食品衛生責任者を1名以上配置することと、都道府県が定めた基準を満たす施設を作ることです。

食品衛生責任者は、調理師や栄養士の資格を持っている人が1人いれば良く、資格を持っていない場合は講習会を受講することで食品衛生責任者の資格を取ることができます。

施設基準を満たしているかどうかは必要な書類を提出するだけでなく、実際に施設の確認検査を受けて合格する必要があります。都道府県によって基準が異なるため、届けを出す都道府県の内容を確認しておきましょう。

保健所に事前相談・確認しておく

営業許可の申請過程では、安全面と衛生面を中心に、規定通りの構造や設備か、要件を満たす配置がなされているかなどの詳細が確認されます。検査項目は保健所により異なり、事前にどのような部分に留意して準備するとよいのかを保健所で相談しておくことをおすすめします。

施設の検査は店舗の工事完了後に行いますが、検査時に不備が見つかると工事のやり直しが必要になるかもしれません。工事前の設計図面の時点で保健所に相談しながら計画を立てると手戻りが少なくて済みます。

申請に必要な書類

営業許可申請は店舗の場所を所轄する保健所に提出します。都道府県により違いはありますが、おおよそ以下の書類が必要です。

飲食店営業許可申請書 飲食店営業許可申請の届け出書類です。代表者の住所氏名、営業所の住所・名称などを記載します。都道府県により異なるため、所轄の保健所の窓口もしくはホームページからダウンロードして入手します。
営業設備の大要 面積、構造、設備など、店舗の概要を記載します。現地調査を行う際の参考書類となるため、正確に記入しましょう。用紙は保健所の窓口かホームページからダウンロードして入手します。
配置図 出入口、客室のテーブルや椅子の配置、厨房、トイレ、手洗い場などの各設備の配置を平面図にします。検査を行う際に見比べますので、間取りも施設や客席など、詳細な配置がわかるようにていねいに書き起こしましょう。
店舗の地図 店舗の場所がわかる地図です。
登記事項証明書 営業許可を申請する者が法人の場合に提出します。
水質検査成績書 ビルなどで貯水槽の水を利用する場合や、井戸水を使う場合に提出が必要です。1年以内に発行されたものでなければなりません。ビルの管理会社や家主などに問い合わせて入手します。
食品衛生管理者の資格を証明するもの 調理師や栄養士であれば免許証を用意します。食品衛生責任者の講習を受講した場合は「食品衛生責任者手帳」が必要です。

飲食店営業許可申請書の書き方

自治体により詳細な書式は異なりますが、営業許可書には主に以下の項目があります。

宛先 所轄の保健所を記入します。
日付 営業許可を申請する年月日を記入します。
住所・氏名 個人事業の場合、店舗ではなく代表者個人の住所と氏名を記入します。法人の場合、法人の所在地と法人番号などを記入します。住民票や登記事項証明書通りの正確な番地、番号を記入しましょう。
営業所の所在地・名称 店舗や事業所の所在地を記入します。名称は屋号や商号を記入します。賃貸物件の場合、賃貸借契約書の記載通りに記入します。
営業の種類 申請する業種を記入します。飲食店のみの営業の場合、「飲食店営業」と記入します。同じ店舗内で複数の業務を行う場合はすべての種類を記載します。
許可番号・許可年月日 現在受けている許可の番号と許可を受けた年月日を記載します。新たに許可を申請する場合は空欄にします。
法第55条第2項関係 過去2年間に食品衛生法に違反して刑に処せられたり、または許可を取り消されたりした場合が該当します。新たに許可を申請する場合は基本的には該当しないでしょう。該当しない場合は「なし」と記入します。
食品衛生責任者の氏名・資格 食品衛生責任者の氏名を記入し、資格の欄や受講した講習会の名称を記入します。

営業許可の申請は都道府県ごとに少しずつ条例も様式も異なります。確実な手続きを目指す場合は行政書士などの代行業者に依頼する方法も一つの手段です。
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営業許可の申請、許可取得の方法

ここからは、飲食店の営業許可の申請の流れや日数、費用、更新手続きなど、具体的な内容をみていきましょう。

申請から許可取得までの流れ

飲食店の運営は、書類提出、施設の確認検査を経て許可書が交付されてはじめて営業開始となります。店舗が完成してからいきなり許可申請を出すのではなく、事前に所轄の保健所に相談してクリアすべき点を明確にしてから、工事に着工し、営業許可申請を届け出るようにしましょう。

事前相談から営業許可申請、営業開始までの主な流れは以下のとおりです。

事前相談 店舗を所轄の保健所に相談しにいきましょう。工事図面を持って行くと、営業許可の基準を満たしているかの判断がつきやすくなります。
工事、各種書類作成 保健所のアドバイスに基づき、店舗の工事に着工します。また、営業内容に応じた書類を作成します。
営業許可の申請 工事が完了する10日ほど前に営業許可の申請を行います。申請の添付書類として、営業施設の大要、配置図、登記事項証明書(法人の場合)、水質検査成績書(貯水槽、井戸水を使用する場合)、食品衛生資格者の資格を用意します。
施設の確認検査 審査書類の提出時に、保健所の担当者が現場へ検査に来る日程を調整し、確認検査を受けます。
許可書の交付、営業開始 営業許可書の交付を待って開業します。営業許可書は店内の見やすい場所に掲示します。

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取得にかかる日数

飲食店の営業許可申請は、スムーズにいけば申請から2週間から3週間程度で営業開始に至る場合が多くなっています。都道府県によって手続きの詳細や検査基準が異なります。工事の手戻りをなくして順調な開業を目指すなら、着工前に建物や設備の要件を確かめておきましょう。

また、保健所の検査は工事が完了した後になります。営業開始を急ぎたい場合は、書類の営業許可申請を工事が完了する前に行い、工事完了後すぐに検査を受けられるよう、手続きのタイミングを工夫するとよいでしょう。

取得にかかる費用

営業許可の取得時に必要な申請料は都道府県が独自に定めているため、詳細については窓口やホームページなどで確認してください。新規取得の場合、1万6,000円から2万円程度が多いようです。書類の申請と同時に窓口に支払います。

行政書士などの代行業者へ依頼した場合は依頼料も見込む必要があります。依頼料は新規取得の場合、数万円から十万円を超える場合など事務所によって異なります。

営業許可の更新

飲食店の営業許可は定期的に更新する必要があります。多くの自治体では5年から8年に有効期限を定めています。営業許可書に記載された有効期限を確認しておき、期日の1カ月前には更新手続きを行いましょう。

更新の際は、現在持っている営業許可書や水質検査成績書などの必要な書類を揃えて保健所に申請します。更新の際にも確認調査があり、衛生面や安全面に問題がないか、建物や施設に不備がないかを確認します。新しい営業許可書は検査の後数日で交付されます。

万が一更新を忘れていた場合は、気づいた時点で速やかに新規申請を行いましょう。そのまま営業していると無許可営業になり、悪質とみなされると罰則が適用される可能性があります。

保健所の検査をクリアするポイント

ここからは、保健所が店舗で行う検査の要点をみていきましょう。大きくは衛生面と安全面の基準がポイントとなります。

建物

都道府県によって細かな基準は異なりますが、主に次のような項目がチェックされます。営業内容によっても条件が違うため、所轄の保健所で確認しましょう。

・清掃がしやすい材質
・内壁は汚れやすい高さまで耐水材料を使う
・明るい色を使う
・清掃しやすい
・水を使った清掃を行う調理場は、コンクリートや耐水性の材料を用いる
・水はけが良い床が望ましい
・場所によっては油が下水に流れ込まないようグリストラップを設置する
仕切り ・調理スペースと飲食スペースをドアなどで分ける
・飲食営業に関係のない場所を区切る
天井 ・清掃しやすい構造
換気 ・十分な換気が行え、結露やカビの発生などを防止できる換気設備
更衣室 ・厨房スペースとは別に着替え用のスペースを設ける

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設備

飲食店の設備としては、特に厨房での衛生面に注意しましょう。設備についても、都道府県ごとに細かな定めがありますので、必ず開業する地域の記載を確かめてください。

シンク ・食材用シンクと食器洗浄用シンクを分けるために二槽設置
・各槽に蛇口がついている
・給湯設備がある
厨房施設 ・冷蔵庫、冷凍庫、オーブンなどの調理器具など、調理設備がすべて厨房内に収まっている
・冷蔵庫や冷凍庫に温度計を設置する
トイレ ・従業員の人数に応じたトイレの数が設置されている
・トイレが厨房から離れていて、衛生的に問題ない位置にある
・流水式の手洗い設備が設置されている
手洗い場 ・従業員用とお客様用がそれぞれ設置されている
・流水式の手洗い設備を設ける
照明 ・作業に必要な照度を十分に取り入れられる構造とする
廃棄物容器 ・衛生的で匂いや液体が漏れない容器や設備を備えている
駆除設備 ・ネズミや昆虫の侵入を防止する装置、駆除をする設備が設置されている

食品関係営業許可申請の手引を参考にしよう

飲食店の営業許可は都道府県ごとに細かな基準が定められています。営業許可申請の手引書が作成されていることが多いため、よく読んで計画を立てるようにしましょう。

参考までに、東京都が公表している「食品関係営業許可申請の手引」に掲載されている内容を記します。

  • 食品に関する営業の分類
  • 営業許可申請の手続き(事前相談、申請書類の提出、施設検査の打合せ、施設完成の確認検査、許可書の交付)
  • 営業許可申請書の書き方
  • 営業施設の共通基準
  • 緩和規定
  • 営業施設の特定基準
  • 追加規定
  • 施設の構造および設備を示す図面、記載例
  • 取り扱う食品一覧表
  • 届出業種一覧表
  • 営業開始後の届出

飲食店の開業にあたって必要になる営業許可の取得についてみてきました。事前に書類を準備して審査を受け、現地でも保健所の立ち入り検査を受けるなど、開業前に行うことが多くあります。さらに許可書の交付までにも期間が必要です。開業予定日になって慌てないよう、事前の計画をしっかり立てて保健所と相談しながら取り組むことをおすすめします。

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執筆は2022年1月6日時点の情報を参照しています。
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