個人間での贈与や、相続を受けるときに税金がかかるように、事業が承継されるときにも、同じように税金がかかってしまいます。
その場合、納税額が多ければ、当然企業の重荷となってしまい、せっかく承継したのにも関わらず継続しての経営が困難となるおそれがあります。納税によって事業経営が上手くいかなくなるのは本末転倒であることから、事業承継をした中小企業の負担を軽減するための制度が設けられています。
今回は、中小企業の事業承継を促進するための制度である事業承継税制について解説していきます。
事業承継税制の概要
事業承継税制とは、先代経営者から非上場株式の贈与または相続を受けた場合に、後継者が納税しなければならない贈与税や相続税の納税義務を猶予または免除することができる制度です。
通常、事業承継で引き継がれた株式などには税金がかかりますが、中小企業にとって納税が過重な重荷となってしまう場合には、承継した事業を継続することができないおそれがあります。
そこで、一定の要件を満たした中小企業において、贈与税や相続税の納税義務を猶予または免除することで、円滑な事業承継を推進するために、事業承継税制が制定されました。
なお、2018年度の事業承継税制改正の結果、2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間は、特例措置として要件の緩和などが実施されているため、この記事では改正後の特例措置についての解説をしています。
事業承継税制が適用されるための要件
事業承継税制が適用されるためには、企業や先代経営者、後継者がそれぞれの要件を満す必要があります。
企業の要件
【相続税・贈与税共通】
- 中小企業であること
- 従業員がいること
- 資産管理会社ではないこと
- 上場企業や風俗営業企業ではないこと
先代経営者の要件
【相続税・贈与税共通】
- 代表者であったこと
- 相続または贈与の直前で、先代経営者とその親族などが総議決権数を過半数保有しており、かつ、筆頭株主であったこと
【贈与税単独】
- 代表者を退任していること(有給役員として残ることは可能)
後継者の要件
【相続税・贈与税共通】
- 相続または贈与が行われたときに後継者とその親族などが総議決権数を過半数保有し、かつ、筆頭株主であること
【相続税単独】
- 相続の直前に役員であり、相続から5カ月後に代表者であること
【贈与税単独】
- 贈与が行われたときに20歳以上であったこと
- 贈与の直前に3年以上役員であったこと
- 企業の代表者であること
事業承継税制が適用されるまで
事業承継税制が適用されるためには、以下の手続きを行わなければなりません。
適用までの手続き
(1)「特例承継計画」の確認申請
事業承継税制では、2018年1月1日から2027年12月31日までが特例措置の期間となっていますが、実際に利用するためには、2018年4月1日から2023年3月31日までの間に、都道府県知事へ「特例承継計画」の確認申請をしなければなりません。特例承継計画は、承継時までの経営見通しなどを盛り込んだ計画であり、「経営革新等支援機関」の意見を記載しなければなりません。
なお、「経営革新等支援機関」とは、政府の認定を受けた税理士や商工会などであって、すべての税理士が該当するわけではありません。「経営革新等支援機関」については、こちらから詳細をご確認ください。
(2)都道府県知事の認定
「特例承継計画」の確認を受け、実際に贈与または相続が行われた後、企業や先代経営者、後継者それぞれの要件が満たされていることなどについて、都道府県知事の認定を受けなければなりません。
(3)税務署への申告
贈与税または相続税の申告期限までに、申告書やその他の書類を税務署へ提出しなければなりません。また、納税が猶予される贈与税または相続税、利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。担保については、納税猶予を受ける非上場株式のすべてを担保提供することで、贈与税または相続税、利子税の額に見合う担保提供があったとみなされます。
納税猶予適用の継続要件
相続税または贈与税の納税猶予が継続的に認められるには、税の申告期限が経過した後の5年間は、下記の要件を満たさなければなりません。
- 後継者が代表者であること
- 資産管理会社ではないこと
- 上場企業や風俗営業企業ではないこと
- 後継者が筆頭株主であること
- 後継者が猶予対象株式を継続的に保有していること
- 5年間を平均して雇用者の8割以上を維持すること
また、申告期限から5年経過後も上記2番と5番の要件は満たし続けなければ、納付猶予を継続することができません。
ただし、後継者が新たに次の代に事業承継し、その代でも事業承継税制を利用する場合であれば、当初の後継者の納税義務は免除されます(「猶予継続贈与」といいます)。
言い換えると、2代目経営者から3代目経営者に事業承継され、3代目経営者が引き続き納付猶予に該当することにより、2代目経営者の納付義務が免除されるということです。
免除要件
納税猶予が適用されている贈与税または相続税は、一定の要件を満たした場合に、納税義務の免除が適用されます。
【贈与税】
免除要件は、以下のとおりです。
- 先代営者(贈与者)または後継者(受贈者)が死亡したとき
- 贈与税の申告期限が経過後5年間において、やむを得ない理由により、代表権を有しなくなった日以後に「猶予継続贈与」を行ったとき
- 贈与税の申告期限から5年経過後に「猶予継続贈与」を行ったとき
- 贈与税の申告期限から5年経過後に破産手続開始決定などがあったとき
- 贈与税の申告期限から5年経過後に事業継続が困難で譲渡・解散したとき
【相続税】
免除要件は、以下のとおりです。
- 後継者(相続人)が死亡したとき
- 相続税の申告期限後5年間において、やむを得ない理由により、代表権を有しなくなった日以後に「猶予継続贈与」を行ったとき
- 相続税の申告期限から5年経過後に「猶予継続贈与」を行ったとき
- 相続税の申告期限から5年経過後に破産手続開始決定などがあったとき
- 贈与税の申告期限から5年経過後に事業継続が困難で譲渡・解散したとき
ここまでの各手続きの詳細については、中小企業庁が公表している下記の資料により確認することができます。
参考:非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし
事業承継税制の利用により、後継者が納税しなければならない贈与税または相続税が猶予され、最終的にはそれらの納税義務が免除される可能性もあります。
手続きが複雑で、長期的に要件を満たさなければなりませんが、国としても、中小企業の円滑な事業承継を促進しようという方針であるため、定期的に手続きの簡素化などが行われています。
簡単に行える手続きではありませんが、納税義務が免除される可能性のあるこの制度は、中小企業にとって、大きなメリットとなります。利用に当たっては、税理士などの専門家に相談のうえ、制度を利用することが推奨されます。
執筆は2020年1月3日時点の情報を参照しています。
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