2018年度の税制改正により、2020年分の所得税確定申告から青色申告特別控除額と基礎控除額が変わります。これまで通り65万円の控除を受けるには、「電子申告(e-Taxによる申告)」または「電子帳簿保存」が必要です。基礎控除額が上がるので、要件を満たせば控除額がこれまでより10万円アップする計算になります。個人事業主にとって、節税の観点から大きな変更です。
電子帳簿保存の導入にはハードルもありますが、経理のペーパーレス化を進めることにもなるので、業務面でもメリットがあります。
今回は、経理業務を電子化したい、青色申告特別控除の適用を受けたいと考えている個人事業主に向けて、電子帳簿保存法の概要や考え方、ペーパーレス化のために使えるソフトについて解説します。
目次
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、国税関係の帳簿書類を電子データで保存することを認めた法律です。確定申告関係の書類や帳簿、領収書などの電子保存について規定しています。
もともとは1998年に制定された法律です。2005年には紙をスキャンしたデータも保存が認められ、2016年にはスマートフォンなどでの撮影データの保存も認められるなど、時代に合わせて改正が行われています。
対象となる書類
電子帳簿保存法では、(1)電子データによる保存と(2)スキャナで取り込む電子保存の2種類が認められています。
(1)電子データによる保存:パソコンで作成した書類を紙にプリントせずに保存することです。この対象となるのは、「自分がパソコンで作成した帳簿」であることです。帳簿の例としては仕訳帳、総勘定元帳、経費帳、売上帳、仕入帳などが該当します。決算会計書類についても同様で、損益計算書や賃借対照表が該当します。また、パソコンで作成して取引相手に渡す書類(見積書、請求書など)の写しの電子保存が認められています。
(2)スキャナ保存:税法で保存が義務付けられている書類を、紙のままではなくスキャナで読み取った電子データの形で保存することです。取引相手から受け取った書類や、自分で作成して取引相手に渡す書類の写しが対象です。具体的には、契約書、見積書、注文書、領収書などが該当します。スキャナ保存という名称ですが、200dpiという解像度をクリアすればスマートフォンやデジタルカメラでの撮影も認められています。資金や物の流れに直結している書類「重要書類(契約書、納品書、請求書、領収書など)」と、そうではない「一般書類(見積書、注文書など)」で要件が異なっています。
電子帳簿保存を始めるためには「申請」が必要
電子データ保存でも、スキャナ保存でも、電子帳簿保存を始めるためには申請が必要です。所轄の税務署に、承認申請書と添付書類を提出します。期限は、帳簿の備え付けや電子データの保存を開始する月の3カ月前までです。(注:2022年からは申請が不要になりました)
添付書類は利用するシステムの仕様書、事務処理の責任者や作業工程をまとめた書類です。国税庁作成の業務規程サンプルが参考になります。
申請の要件を満たすためには、保存要件を満たす適切なシステムの導入が必要です。「真実性の確保」「可視性の確保」に関する要件を満たすシステムを選ばなくてはなりません。要件について詳しくは国税庁のホームページでご確認ください。
会計システムを導入し、電子帳簿保存の申請を検討している場合、要件を満たすかを確認しておきましょう。「日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)」が認証を行っているので、認証の有無を基準に選ぶのも良いでしょう。
電子帳簿保存を導入するメリット
電子帳簿保存を始めるには、要件を満たすシステムを導入し、社内での作業フローを構築し、申請作業を行うという手間がかかります。しかし、一度乗り越えてしまえばペーパーレス化が一気に推進できるので、将来的な業務の削減につながります。
紙での保存が不要で、保管コスト・管理負担が減る
従来のように紙で書類をファイリングして保管しておく必要がなくなるので、保管場所を確保するコスト、管理するストレスから開放されます。また、紙で保管するゆえの紛失リスク(印刷が薄れてしまう、間違って捨ててしまう、災害で紛失する)もありません。
データを見つけやすくなる
すべての書類をデータで保管することができれば、いざ情報が必要になったときに探す場所を限定することができます。過去の事例を確認したいときもすぐに確認できます。会計監査などで情報の調査が必要になったとき、負担を最小限に抑えられます。
業務フローを見直して生産性アップにつながる
電子帳簿保存に対応するためには、業務手順を文書化して整備する必要があります。マニュアルを準備しておけば、他の人に経理業務を依頼するときもスムーズに引き継げます。電子化されているデータは社外からも確認できるので、急に在宅勤務が必要になった場合でも対応ができます。
65万円の青色申告特別控除が得られる
2020年分の確定申告から、青色申告特別控除の額が変わります。現行65万円の特別控除が改正後は55万円になります。その分、基礎控除額が38万円から48万円に増額されるため、青色申告を行う個人事業主の控除総額は変わりません。しかし、一定の要件を満たすことで65万円の青色申告特別控除を得ることができ、これまでより10万円控除額を増やすことができます。
控除額を増やす条件の一つが電子帳簿保存です。もう一つはe-Taxによる電子申告です。事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、税務署長の承認を受けて電子データで備え付け・保存をする必要があります。通常は帳簿の備え付けを開始する日の3カ月前の日までに税務署へ申請書を提出する必要があり、課税期間の途中からの適用はできません。ただし、2020年分に限っては、2020年9月30日までに申請書を提出し、12月31日までに電子帳簿保存を行うことで、65万円の青色申告特別控除を受けられます。(注:2022年からは事前の申請が不要になりました)
電子帳簿保存法を正しく理解して、経理業務の効率化に役立てよう
電子帳簿保存の導入は、節税面でも業務効率を考える上でもメリットが得られます。要件を満たすシステムの導入や作業フローの確率など、超えるべきハードルは複数ありますが、一度乗り越えてしまえば経理面での負担が大きく減ります。経理業務を削減できれば、本業にさらに注力できます。電子帳簿保存の導入について、前向きに検討してみましょう。
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執筆は2020年6月28日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に記事の一部を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash