エモーショナルマーケティングは、お客様の感情に働きかけることで購買意欲を刺激するマーケティング手法です。お客様の感情を動かすエモーショナルマーケティングのためには、どんな時、どんな風に人間の気持ちが動くかを知っておく必要があります。店舗や企業の経営にエモーショナルマーケティングを上手に取り入れるために、効果的な実践方法や注意点を解説します。
エモーショナルマーケティングとは
エモーショナルマーケティングは、お客様の欲求をかき立てることで、商品やサービスの購買をアップさせる手法です。エモーショナルマーケティングの概念を理解する上で重要な鍵となるのは、お客様の欲求、つまり欲しいという気持ち(=ウォンツ)を刺激するのであり、必要性(=ニーズ)を刺激するのではないということです。本能的な感情であるウォンツは、購入判断にニーズを超えた強い影響力を及ぼすとされています。
たとえば、栄養価の高いドリンクを販売する際、以下のような二つのマーケティングの戦略方針が考えられます。
A:このドリンクに含まれる成分は骨を丈夫に保ち、骨折の予防などに役立つため、健康志向の人をターゲットにする
B:このドリンクはスタイリッシュなモデルやアスリートが摂取しており、彼らのようなライフスタイルに憧れる人をターゲットにする
ドリンク商品を企画するにあたって、同一成分の商品であってもAとBのような異なるマーケティング戦略を立案することが可能です。健康に役立つ栄養分を売りにするAは人々の健康ニーズに働きかける方法ですが、Bは憧れという感情・欲求に働きかける、つまりエモーショナルマーケティングの手法です。
Aのようにニーズに働きかけるのであれば、健康成分や効果を前面に押し出した商品名やキャッチコピー、パッケージデザインが重要となりますが、Bの場合はスタイリッシュさやおしゃれなライフスタイルをイメージさせる要素が求められます。
もし人間がニーズによってのみ購買行動を決定するならば、健康を意識した商品だけが売れるはずです。しかし多くの場合、人の行動決定の大きな要素となっているのは感情であり、「美味しそう」「話題の商品を試したい」、または「憧れ」などの感情が商品に強い興味を抱かせる原動力になります。エモーショナルマーケティングは、人間の根源的な欲求を理解し、そこに上手に応えていくことで利益につなげていきます。
参考:あなたの会社が90日で儲かる!―感情マーケティングでお客をつかむ(神田昌典、フォレスト出版)
エモーショナルマーケティングで注目すべき感情
たとえば、マンションやアパートを借りる場合、希望条件に合う複数の物件情報を確認した上で、実際に内見に行くことがあります。立地や家賃、設備、間取りなど、条件に合致した物件を複数見た後で、契約申し込みの決定を後押しするのは、感情であることが珍しくありません。同条件であるにもかかわらず、「なぜかこの部屋が好き」という気持ちが決定打になるのです。
「好き」という感情は、それまでに得た情報によって形作られていきます。明文化された賃貸条件以外にも、以下のような情報に触れ、そこから感情が形成されているのです。
・室内や建物の印象
・実際に訪れた際の周辺の雰囲気
・窓やベランダから見える外の景色
これらは物件の検索条件に入力できるものではありませんが、人の感情に大きく影響します。希望額よりやや高い賃料であったとしても、「ここに住みたい!」という感情をお客様に持ってもらうことができれば、お客様が上限額を上げて検討するという可能性もあります。感情がそれほどまでに人を動かす力を持っていることを、実体験として経験したことがある人もいるかもしれません。
不動産物件の例と同様に、お客様の感情に影響する要素として、商品写真やディスプレイ、名称やキャッチコピー、ロゴ、宣伝スタイルなどをトータルで感情に訴えかけるものにしていくことが、エモーショナルマーケティングの第一歩です。
エモーショナルマーケティングに関係する価値観
エモーショナルマーケティングを実践する際は、どんな価値がお客様のどんな感情に働きかけるかを想定する必要があります。購買意欲をかき立てるためにはポジティブな感情が必要なだけでなく、感情の種類も見極めた上でマーケティング戦略を立案します。
一例として、中古家具の販売を考えてみましょう。中古という言葉からは、「人が使ったもの」「古いデザイン」「安い」「清潔でない」「年数が経過していて壊れるかもしれない」というイメージを持つ可能性があります。
しかし、中古を「ユーズド」や「アンティーク調」「レトロ風」などの言葉に置き換えてみると、イメージは変化します。これらの言葉からは「歴史がある」「趣きがある」「個性的である」といったポジティブな価値が感じられ、関心を持つ人の「こんな家具が似合うライフスタイルを送りたい」という気持ちに働きかけます。
他にも、以下のような価値が、感情を動かします。
・話題性、トレンド感がある:新しいものや流行に敏感な人の心を動かす
・有名、老舗である:信頼や実績を求める人の心を動かす
・おしゃれ、かわいい、格好いい:好みのスタイルを実現したい人の心を動かす
・芸能人・著名人が使っている:憧れの人に近づきたい人の心を動かす
・特殊性、専門性が高い:機能性以上の特別感や信用を求める人の心を動かす
これらの価値は、商品やサービスの「役に立つ」「良い材料を使っている」といった性能・性質とは異なる属性です。商品やサービスに実用性があり、さらに感情に働きかけるエモーショナルマーケティングの要素を伴えば、購買意欲を後押しすることになり、利益に貢献します。
エモーショナルマーケティング実践方法と注意点
エモーショナルマーケティングの実践は、商品設置のポップやディスプレイを工夫する、ソーシャルメディアやブログ投稿の内容を感情にフォーカスしたものにするなど、手近なところから着手することが可能です。さらに広告の出稿先や内容を感情重視でアレンジすることによっても、潜在的なお客様の心を捉えることができます。
ただし、商品やサービスの種類、性格によって、エモーショナルマーケティングの使い方には注意が必要です。医薬品や医療器具、乳幼児向け商品、乗り物など、安全が最優先されるものを売る場合、感情面への働きかけを優先しすぎて効能や機能の説明が不足すると、不安感にもつながりかねません。安全性などのプロモーションや説明を行う前提のもと、エモーショナルマーケティングも併用することで、お客様の必要性と感情の両方に訴えかけましょう。
人がモノを購入する際の心理を考えたとき、まず「魅力的」であることが「欲しい」という感情を動かし、その上で「どのような特性があるか」「他の商品と差別化されている点は何か」という思考が働くことを覚えておきましょう。もっともわかりやすい例としては、自分自身がある商品を「欲しい」と感じたときの心理の流れをトレースすることで、お客様の感情も想像しやすくなります。お客様のタイプや属性を問わず、なおかつ店舗や企業の規模にも関係なく使えるエモーショナルマーケティングを、ぜひ戦略に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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執筆は2019年3月11日時点の情報を参照しています。
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