商品は売れているのに、代金が支払われるのは数カ月先…このように手元のキャッシュが足りず、資金繰りに行き詰まったことはありませんか。金融機関や公的機関の融資を受けて、資金調達をする事業主も少なくないでしょう。ところが審査に時間がかかってしまったり、金利が高かったりと、状況によっては融資が最適な手段ではないのでは、と感じることもあるかもしれません。そこで今回は借入をせず、入金前に資金調達ができる「ファクタリング」について解説します。
ファクタリングとは
「売掛金の入金前に資金調達ができる」と聞くと、融資と似た印象を受けるかもしれません。わかりやすい違いとして、銀行融資は資金化に数週間から数カ月をかかるところ、ファクタリングは最短即日から数日で素早く資金調達ができます。その方法として、融資の借入とは異なり、事業主が顧客(売掛先)から代金を受け取る権利、すなわち売掛債権をファクタリング会社に売却します。わかりやすく、全体のプロセスを説明しましょう。
1, 顧客に商品・サービスを提供する
2, 顧客に代金(売掛債権)を請求する
3, 事業主がファクタリング会社に売掛債権の買い取り依頼をし、契約を結ぶ
4, ファクタリング会社が事業主から売掛債権を買い取る
5, ファクタリング会社が事業主に手数料を差し引いた売掛金を支払う
6, ファクタリング会社が顧客(売掛先)から売掛金を回収する
このようにファクタリングを取り入れることで、売り上げはあるにも関わらず手元に資金が足りていないことからなる黒字倒産などを回避し、企業を成長させるための資金をいち早く確保することができます。ビジネス拡大の方法として視野に入れたいファクタリングをよりよく理解するためにも、資金調達において一般的とされている融資との違いを見ていきましょう。
担保や保証人の有無
融資を受けるためには、返済できなかったときのために、保険の役割を果たす担保が求められます。ところが担保にできるものが少ないことも考えられる中小企業は、融資がそもそも受けられなかったり、高い利率を要求されたり、と円滑に融資を受けられないケースがあります。
参考:中小企業における資金調達の課題 ~売掛債権担保及び動産担保の活用に向けて~ (参議院)]()
一方、ファクタリングでは前述の通り、売掛債権をファクタリング会社に譲渡してしまうため、事業主が債務を請け負う必要がありません。そのため、不動産担保や保証人を用意する必要がありません。
審査の難易度
事業主がファクタリングを検討する理由として、融資と比べて審査の難易度が低いという点が挙げられます。その理由は返済先にあります。融資の場合、返済が求められるのは事業主ですが、ファクタリングの場合、売掛金が支払われるかは売掛先次第です。
事業主の信用性が重要視される融資を引き受ける場合、事業主は書類や担保、保証人などを用意しなければいけません。一方ファクタリングでは売掛先の信用力が重視されるため、赤字である、起業して間もない、など事業主の事情はあまり重要視されません。従って銀行融資の審査に断られてしまった場合でも、ファクタリング会社を通せば審査に通る可能性があります。
返済義務の有無
融資を利用すると、当然ながら返済しなければいけません。つまり万が一売掛金が回収できなかった場合にも、事業主が返済義務を負います。一方、ファクタリングでは売掛先がファクタリング会社に売掛金を支払わなかった場合に返済義務を負う「リコースファクタリング」に加えて、同様のケースでも返済義務を負わない「ノンリコースファクタリング」が存在します。前者を選択した場合、手数料を少なくできるという利点がありますが、リスクを削減するためにも「ノンリコースファクタリング」を選ぶことが主流となっているようです。
ファクタリングを経営改善に活用する方法
借入依存を回避
借入を通して資金調達をしていると、問題となってくるのが借入金依存です。特に中小企業は、大企業に比べて借入依存度(企業の資産のうち、借入に依存している比率)が高い傾向にあり、依存度は高くなるにつれて返済の負担が増加してしまいます。また、金利が上がることで支払い利息が上昇するリスクも考えられます。融資が原因で資金繰りが厳しくなる可能性も否定できません。ファクタリングの場合、ファクタリング会社が売掛債権を買い取る際に差し引かれる手数料はあるものの、返済の負担が大きくなり資金繰りに困る借入依存をしなくて済むのは大きなメリットでしょう。
参考:2016年版中小企業白書 中小企業の成長を支える金融 (中小企業庁)[])
売掛金を早期回収することで、経営規模の拡大につなげる
たとえばインターネット通販業など数カ月経たたないと入金が見込めないビジネスの場合、立ち上げ当初は資金繰りが厳しくなりがちです。ですが、この最初の数カ月にファクタリングを通じて資金を早期調達することで、広告を打てる費用ができたり、開発コストに充てることができたりと事業拡大に資金を回せるようになります。
押さえておきたいファクタリングの種類
ファクタリングは二社間ファクタリングと三社間ファクタリングの大きく二つに分かれます。手数料の値段や入金スピード、そして売掛先への通知の有無などがそれぞれ異なるので、詳しく知ることで自社に適した取引方法を見い出しましょう。
二社間ファクタリング
二社間ファクタリングは、主に入金スピードを重要視する事業主が検討する選択肢です。売掛先の同意を得る必要はなく、ファクタリング会社と事業主の間で契約が完結されるので、資金到達までのプロセスがスピーディーであるのが利点です。ただし事前に注意しておきたいのは、手数料が三社間ファクタリングよりも高額であるところです。その理由を理解するためにも、まずは二社間ファクタリングの流れを見ていきましょう。
1,売掛金が発生する
2,事業主が顧客に代金(売掛債権)を請求する
3,事業主がファクタリング会社に買い取り依頼し、契約を結ぶ
4,事業主がファクタリング会社に売掛債権を譲渡する
5,ファクタリング会社が手数料を差し引いた買い取り額を支払う
6,事業主が顧客から代金を受け取り、そのままファクタリング会社に支払う
顧客はまず事業主に支払いをしてからファクタリング会社に売掛金が渡るため、ファクタリング会社は貸し倒れのリスクを負っています。そこでファクタリング会社は、事業主が売掛金を他の資金に充ててしまうリスクを考慮して、三社間ファクタリングよりも高い手数料を請求します。
ただし二社間ファクタリングを利用する際は、法人でないと利用できない「売掛債権の譲渡登記」が条件になることが一般的です。「それでは個人事業主は?」という質問が浮かぶかもしれません。個人事業主の場合、二社間ファクタリングは一切できないとは言い切れませんが、利用できるファクタリング会社が限られてしまうことに加えて、事業主の信頼性も重要視されるでしょう。
三社間ファクタリング
三社間ファクタリングは、手数料を抑えたいときに適した手段です。二社間ファクタリングでは15%から25%ほどかかることが想定できるところ、三社間ファクタリングでは最安値で1.5%から、高くても5%が相場とされています。この場合、文字通りファクタリング会社、事業主、そして売掛先の三社の間で契約が結ばれます。二社間ファクタリングと同様、全体のプロセスを見ていきましょう。
1,売掛金が発生する
2,ファクタリング会社に買い取り依頼をする
3,事業主が売掛先に債権譲渡の同意を得る(ファクタリング会社も売掛先にフォローを入れる)
4,事業主が売掛先に代金(売掛債権)を請求する
5,事業主がファクタリング会社に売掛債権を譲渡する
6,ファクタリング会社が手数料を差し引いた買い取り額を事業主に支払う
7,売掛先がファクタリング会社に直接代金を支払う
二社間ファクタリングと大きく違うのは、ファクタリング会社の口座に直接入金する同意を顧客から得る必要がある、という点です。ファクタリング会社はこの同意のプロセスを踏むことで貸し倒れリスクを防げるので、三社間ファクタリングの場合、二社間ファクタリングよりも手数料が安く済みます。ただし、この時点でファクタリング会社を利用していることが顧客に明かされてしまうので、顧客に「資金繰りが厳しいのかも」と思われてしまう可能性も否めません。極端な例ではありますが、顧客が倒産を危惧し、取引先を変えてしまう可能性も考えられます。また、三社間ファクタリングを利用する際には顧客から同意を得るために時間を要するため、二社間ファクタリングのように最短即日入金などは見込めず、数日後、場合によっては数週間後の入金が現実的とされています。
手数料の値段と入金スピードのどちらを重要視するかによって、自社に適しているファクタリング方法がある程度見えてくるでしょう。
ファクタリング会社の選び方
手数料や入金スピードはもちろんのこと、会社によっては個人事業主と取引をしなかったり、取扱額が異なったりとファクタリング会社によってもサービスに細かな違いが出てきます。自分の条件に合ったファクタリング会社を見つけるためにも、まずはチョウタツ王など、複数社に見積書依頼ができるサービスを利用してみるのも一つの手でしょう。また、2007年にはファクタリングを悪用するヤミ金業者が横行したケースも報じられているので、悪徳業者にも注意を払いたいところです。手数料が他と比べて高額、オフィスでの面談を設けない、会社情報が非公開、などといった会社には警戒心を示した方が良いでしょう。
参考:金融取引装う「新型ヤミ金」が横行 標的は中小企業…警察・支援団体も対応本腰(2017年2月14日、産経WEST)
2015年にみずほ総合研究所が発表した中小企業の資金調達に関する調査によると、借入経験のある企業のうち85.8%は「金融機関からの借入」を成長に適した資金調達法とする一方で、44.5%の比率で無借金企業は「内部留保」を最適の資金調達法としています。この調査結果にある通り、国内ではファクタリングという選択肢がまだ大きく広まっていないことが伺えますが、キャッシュフローを改善する方法を検討しているのであれば、早期現金化が見込めるファクタリングを視野に入れてみてはいかがでしょうか。
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執筆は2019年6月24日時点の情報を参照しています。
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