事業を継続していくには、さまざまな場面で運転資金が必要となります。大企業であれば自己資本から捻出することもできますが、多くの中小企業や個人事業主の場合、資金不足に陥ることも少なくありません。手元資金で足りない場合、金融機関など外部から調達する必要があります。
この記事では、運転資金についての基本的な知識と、資金が足りないときの対処法について解説していきます。
運転資金とその計算方法
運転資金とは、事業を運営していくために必要な資金のことを指します。ビジネスを運営していくためには、家賃や仕入れ、人件費、光熱費などさまざまな場面でお金が必要です。支払わないと事業を続けていけない、という性格の資金が運転資金と呼ばれます。
ちなみに、設備投資に必要な資金は設備資金と呼ばれ、明確に区別されます。設備資金も会社運営のためには必要ですが、投資は事業拡大を目指すためのもので、実施しないという選択肢もあるためです。
運転資金の種類
運転資金にはいくつかの種類があり、それぞれ必要となる背景が異なります。
経常運転資金
会社が正常な営業活動を行っていくために必要な資金です。売り上げの入金時期と仕入れの支払い時期のギャップから発生し、経常的に必要となります。
増加運転資金
事業が好調で、売り上げが伸びていった場合に必要な資金です。売り上げが増えれば、仕入れや増員した分の人件費など、通常より多くの費用がかかります。そのため、増加した売り上げの入金まで、つなぎとして増加運転資金が必要になる場合があります。
減少運転資金
事業が不調で売り上げが減少していった場合に必要な資金です。売り上げが下がっていくと、事業規模を縮小するためにかかる諸経費、売り上げが好調だった頃の仕入れ、人件費などの費用を支払うため、資金が足りなくなる場合があります。売り上げの回復や、コスト削減により事業の回復を実現するまでの間、つなぎとして資金が必要になります。
季節運転資金
特定の季節に必要となる資金です。代表的なものに、従業員に支払うボーナスがあります。他にも、事業内容や取り扱う商品などさまざまな事情で、売り上げが月によって大きく変動する場合に必要な資金も季節運転資金と呼ばれます。たとえば冷房設備を販売する会社の場合、売り上げが集中する春から夏にまとまった仕入れが必要です。融資を受ける場合、返済まで1年以内の短期間となるのが一般的です。
赤字補填資金
発生した赤字を補填するための資金です。赤字が継続すると、手持ち資金が減少し、仕入れの支払いや給与の支払いが難しくなります。
他にも銀行からの評価が下がり、借り入れの金利が引き上げられ支払いが増えることもあります。こうした影響で資金繰りが悪化することを防ぐために、資金が必要となります。
運転資金の計算方法
経常運転資金の必要金額は、以下のように計算します。
経常運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 – 買入債務
計算式の各項目の意味は、以下の通りです。
売上債権:受取手形と売掛金のうち、未入金の金額
棚卸資産:在庫の商品
買入債務:支払手形や買掛金のうち、未払いの金額
運転資金が少なく経営が困難なときの対処法
運転資金が足りなくなると経営は苦しくなるため、早急に改善が必要です。以下のような対処法が考えられます。
売上債権、買入債務の期間見直し
資金繰りを改善するには、売上債権や買入債務の期日を見直し、入出金の時期をコントロールするのが基本的な手段です。売上債権の回収期間を短縮し、売り上げを現金化するまでのスピードが早くなれば、手元の資金が増えていきます。逆に買入債務の支払いまでの期間を引き延ばせば、資金が減るのを緩やかにすることができます。
ただし、どちらも自社の都合だけでは変更できず、取引先と交渉が必要です。交渉の仕方によっては取引継続が難しくなるリスクもあるため、十分注意しましょう。
不良在庫の削減
資金繰りの悪化には、保有している在庫が影響していることもあります。不良在庫は現金化するのが難しいため、なくすまで時間がかかってしまうことが多いものです。長期滞留している在庫は処分するなどして、早期に削減する努力が必要となります。
固定費の見直し
人件費や店舗建物の賃料などの固定費は、毎月同じ金額が必要になります。その分不要な固定費を削減できれば、資金繰り改善の効果は大きいです。現在支払っている固定費を見直し、削減できる方法がないか考えてみましょう。より安い賃料の建物への移転などの工夫が必要となる場合もあります。
未回収債権の整理
保有する売掛金や受取手形の中に、長期間回収できず不良債権化しているものがあれば、回収することで運転資金を減らすことが期待できます。
ただし、これまで長期間解消できていなかった場合、急に入金を要請してもスムーズに解消できない場合が多いものです。状況によっては法的な手段を取る必要が出てくるかもしれません。
返済計画の見直し(リスケジュール)
すでに借入金があるなら、資金繰りの改善のために返済計画を立て直すのも一つの方法です。どうしても返済が困難な場合、借り入れしている金融機関に相談しリスケジュール(返済の猶予、期間引き延ばし)してもらうことも手段として考えられます。
ただし、当初の予定通り返済ができないことで金融機関からの信用が低下する可能性がありますし、経営改善計画書の提出も必要となります。リスケジュールの必要性と、どのように改善していくのか金融機関を説得できなければ、審査で断られてしまうこともあり得ます。
他の方法で改善することを第一に考え、どうしても難しい場合に選択することをおすすめします。
運転資金の資金調達をするときのポイント
資金が必要な理由と金額をはっきり提示する
運転資金を調達する際に最も重要なのは、なぜ資金が必要なのか、いくら必要なのか具体的に説明することです。金融機関から見れば、運転資金は何に使ったのか見えづらいという性格があります。そのため、運転資金として貸し付けたのに実態は事業と関係ない目的で使われていた、などのトラブルが発生することもあります。
資金の使途や必要額に整合性がなければ、信用不安がなくても断られることもあるので、金融機関に対してしっかりと説明できるよう準備しておきましょう。
明確な返済計画書を提出する
運転資金の融資を受けるためには、返済計画書も必要です。作成の際は、売り上げの入金予定から無理なく返済できることをしっかり示しましょう。事業の課題が資金調達により解消し、返済もできることを示せば、融資してもらえる可能性は上がります。
運転資金は経営を続けていくために必須となる資金です。運転資金が足りなくなれば、事業の継続が難しくなることもあります。自社の資金繰りは常に把握し、資金が足りなくなればどのように確保するのか、常日頃から検討しておくことをおすすめします。
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執筆は2020年4月30日時点の情報を参照しています。
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