免税事業者とは?課税事業者との違い、インボイス制度の影響
免税事業者とは、消費税の納付を免除されている個人や法人を指します。これに対し、消費税の納税義務を負う個人や法人は課税事業者といいます。インボイス制度は、免税事業者と課税事業者のどちらにも関わる問題です。本記事では、両事業者の違いを整理し、インボイス制度の影響について解説します。
免税事業者とは?
免税事業者とは、商品の販売やサービスの提供などで預かった消費税を納付する必要がない事業者を指します。まずは免税事業者の定義や要件、また前提となる税制度である消費税のしくみについて簡単に整理しておきましょう。
免税事業者の概要
免税事業者は、事業活動で得た売り上げに対する消費税の納付義務が免除される個人または法人をいいます。消費税の課税対象となる期間の中で商品やサービスを販売し対価を得ても、免税事業者の要件を満たす間は消費税を支払う義務を負いません。一方で、免税されている間は、仕入れの際に支払った消費税を控除として差し引くことはできません。つまり、免税事業者だと、販売時に受け取った消費税より仕入れ時に支払った消費税のほうが多くても還付を受けられないのです。このため、免税事業者の要件を満たしていても課税事業者を選択する場合はあり得ます。
免税事業者の要件は次の3点です。
- 基準期間における売上高が1,000万円以下
-> 基準期間:個人事業主は前々年、法人は前々事業年度 - 特定期間における売上高が1,000万円以下
-> 特定期間:個人事業主の場合は前年の1月1日~6月30日、法人の場合は前事業年度の開始日以後6カ月 - その事業年度の基準期間がない法人のうち、事業年度の開始日における資本金または出資金の額が1,000万円未満
新たに設立された法人は1期目と2期目においては基準期間がありません。したがって当初2期は原則として納税が免除されます。
消費税のしくみ
ここで、消費税のしくみについて簡単に整理しておきましょう。消費税は、製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く課税される税金です。商品の販売や運送、広告など、対価を得て行うほとんどの取引が課税の対象となります。
消費税では消費者が金銭を負担し、納税するのは事業者です。たとえば、ある事業者が一般消費者に対して商品を販売したとき、消費者は商品の対価と消費税を合わせた額を支払い、事業者はいったん消費税分を預かっておき、まとめて税務署に納めます。
事業者が仕入れを行うときには、事業者が仕入れ先に対し、消費税を含めた商品の対価を支払っています。このため、事業者が納付する消費税額は、消費者から預かった消費税から、仕入れで自社が支払った消費税を差し引いた額となります。消費税は課税対象が広範囲にわたるため、商品の生産や流通などの各段階で重複して課税されないしくみになっているのです。
【参考ページ】
No.6501 納税義務の免除|国税庁
消費税のしくみ|国税庁
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と対になる事業者として課税事業者があります。免税事業者が消費税の納税を免除される事業者であるのに対し、課税事業者は消費税の納税義務を負う事業者です。ここからは、課税事業者の特徴との比較を通じて免税事業者の特徴についての理解を深めていくことにしましょう。課税事業者の定義(納税の義務、要件、届出)、消費税の計算方法、申告と納付の方法、消費税の表示についてみていきます。
課税事業者とは
課税事業者とは、商品やサービスの売り上げで生じた消費税を納税する義務を負う事業者です。
下記のいずれかの要件を満たす事業者は課税事業者となります。
- 基準期間における売上高が1,000万円を超える
-> 基準期間…個人事業主は前々年、法人は前々事業年度 - 特定期間における売上高が1,000万円を超える
-> 特定期間…個人事業主の場合は前年の1月1日~6月30日、法人の場合は前事業年度の開始日以後6カ月 - その事業年度の基準期間がない法人のうち、事業年度の開始日における資本金または出資金の額が1,000万円以上である
- なお特定期間における1,000万円の判定には、売上高の代わりに給与の支払額を用いることもできます。
消費税の計算
課税事業者が納付する消費税の額を計算する方法には大きく分けて、原則となる一般課税と、簡略化した簡易課税制度による方法の2種類があります。
一般課税
消費税の計算の原則となる方法が一般課税です。次の計算式で納税額を求めます。
納税額=売り上げにかかった消費税-仕入れにかかった消費税
2023年9月現在、消費税には10%と8%の2種類の税率が混在しています。消費税を申告するには税率ごとに分けて記帳し、集計しなければなりません。また、上記の計算式どおり仕入れにかかった消費税を控除して納税するためには、証拠となる帳簿および請求書等の保存も必要となります。
簡易課税制度
原則となる消費税の会計処理の負担が大きいために用意されたのが簡易課税制度です。簡易課税制度では、仕入れ時の消費税の集計が不要となり、売り上げにかかった消費税のみを基礎として納税額を算出できます。
具体的には、下の式にある「みなし仕入率」を用いて、一般課税よりも簡潔に計算します。
納税額=売り上げにかかる消費税-(売り上げにかかる消費税×みなし仕入率)
みなし仕入率は事業区分ごとに異なり、下記のように設定されています。
- 第1種事業(卸売業)…90%
- 第2種事業(小売業等)…80%
- 第3種事業(製造業等)…70%
- 第4種事業(その他飲食店業など)…60%
- 第5種事業(サービス業等)…50%
- 第6種事業(不動産業等)…40%
簡易課税制度は、中小事業者における税理事務の負担軽減を目的としており、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者が選択できます。
消費税の申告と納付
課税事業者は、確定申告・納付のほか、直前の課税期間の消費税額に応じて中間申告・納付が義務づけられています。確定申告・納付の時期は、個人事業主が翌年3月末日まで、法人は課税期間末日の翌日から2カ月以内です。いずれも所轄の税務署に申告・納付します。中間申告・納付の義務を負うのは直前の課税期間における消費税額が48万円を超える事業者です。下表のとおりに申告・納付を行います。
- 48万円超400万円以下: 年1回(直前の課税期間の消費税額の1/2)
- 400万円超4,800万円以下: 年3回(直前の課税期間の消費税額の1/4ずつ)
- 4,800万円超: 年11回(直前の課税期間の消費税額の1/12ずつ)
期限内に申告・納税を行わなかった場合や間違った申告をした場合、不足した税金を納めるだけでなく加算税や延滞税の納付を求められる可能性があるため注意しましょう。納付の方法は、金融機関または税務署の窓口で現金で支払うほか、e-Taxを使った引落し、クレジットカード、コンビニ納付などが利用できます。
消費税の表示
事業者が消費者に対して商品・サービスの価格をあらかじめ表示する場合、全体としていくら払えばよいのかをわかりやすくするため、税込価格での表示(総額表示)が義務づけられています。価格を表示するところは値札や店頭だけでなく、チラシや広告、ホームページなど種類を問いません。総額表示義務の対象外となるのは、あらかじめ価格表示をしていない場合や口頭で価格を伝える場合です。これらの消費税の表示ルールは、免税事業者か課税事業者かに関わらず適用されます。
免税事業者のメリットとデメリット
免税事業者と課税事業者の大きな違いは消費税の納付義務の有無にあります。この大きな違いを踏まえながら、免税事業者を選択するメリットとデメリットをみていきましょう。
免税事業者のメリット
免税事業者には、課税事業者と比較した場合、大きく2つのメリットがあります。ひとつは、金銭面や事務面での負担の少なさです。免税事業者は、消費税の申告も納付も行う必要がないため、税理事務の負担や金銭的な負担が軽減されます。
もうひとつは、税改正に対応する負担も軽い点があります。消費税制が改正されると、課税事業者は改正内容に応じて消費税の申告・納税や納税額の算出、記帳方法など、さまざまな対応を定められた期日までに行うよう迫られます。この点、免税事業者は消費税を納税しない分、必要な対応が少なくなるのです。
免税事業者のデメリット
免税事業者のデメリットは、消費税の計算が不要となる分、消費税の絡んだ控除や還付を受けることができない点です。事業を立ち上げて間がなく設備や機材など初期費用が多い場合など、売り上げの消費税より仕入れや経費の消費税が多くかかった場合、名税事業者だと消費税の還付を受けることができず、デメリットが大きくなりやすいでしょう。
また非課税取引が多い業種も同様に、メリットよりもデメリットのほうが大きくなるかもしれません。非課税取引には土地の譲渡や貸付け、住宅の貸付け、社会保険医療、介護保険サービス、社会福祉事業などが含まれます。また、国内で仕入れた商品を国外へ輸出する場合など、日本国外での取引も消費税の適用外です。
つまり、賃貸業者や医療・介護事業者、輸出取引業を営む事業者は、売り上げで生じる消費税より仕入れでかかる消費税のほうが大きくなりやすく、免税事業者を選ぶデメリットも大きくなりやすい傾向にあるといえます。
【参考ページ】
消費税のしくみ|国税庁
免税事業者に必要な届出と手続き
免税事業者となるために手続きが必要なのは課税事業者が免税事業者に移行する場合です。免税対象となっている事業者が免税事業者であると登録するための届出は必要ありません。起業した時点ではまだ売り上げがありませんから、資本金が1,000万円以下であれば届出がなくても免税事業者からのスタートとなるのです。
ここでは、免税事業者が関係する届出として、次の3つの場合に分けて必要な手続きを説明します。
- 課税事業者から免税事業者になる場合
- 免税事業者から課税事業者になる場合
- 課税事業者のなかでも簡易課税制度を選択する場合
課税事業者から免税事業者になる場合
課税事業者から免税事業者に移る場合、基準期間の売上高が1,000万円以下になったことが移行のきっかけかどうかで手続きが分かれます。
基準期間の売上高が1,000万円以下になったことにより免税事業者になる場合
基準期間の売上高が1,000万円以下となり免税事業者となる際はすみやかに「消費税の納税事業者でなくなった旨の届出書」を税務署へ提出します。ただし基準期間の売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の売上高が1,000万円を超える場合は免税事業者にはなれません。
基準期間の売上高をきっかけとせず免税事業者になる場合
もともと基準期間の売上高が1,000万円以下なのに課税事業者を選択していた事業者が免税事業者に移る場合などは、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を、免税事業者に移ろうとする課税期間が始まる前日までに税務署に提出します。
免税事業者から課税事業者になる場合
免税事業者が課税事業者になるときの手続きは、事由別におもに4種類です。基準期間の売上高が1,000万円を超えたとき、特定期間の売上高が1,000万円を超えたとき、先の2つのどちらでもないとき、資本金が1,000万円以上の法人を新設するときです。
基準期間の売上高が1,000万円を超えたとき
基準期間の売上高が1,000万円を超えると免税事業者ではいられなくなります。「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」をすみやかに作成し、所轄の税務署に提出する必要があります。
特定期間の売上高が1,000万円を超えたとき
基準期間の売上高は1,000万円以下だが、特定期間において売上高(または給与支払額)が1,000万円を超えたときも課税事業者へ移る手続きが必要です。先ほどと同様にすみやかに「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を作成し、所轄の税務署に提出します。
上記以外の事由で課税事業者になろうとするとき
基準期間および特定期間の売上高が1,000万円以下であっても、手続きをすれば課税事業者になれます。課税事業者の適用を受ける課税期間が始まる前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を所轄の税務署に提出しましょう。
資本金が1,000万円以上の法人を設立するとき
法人を設立する際、資本金または出資金の額が1,000万円以上であれば届出が必要です。「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を作成し、所轄の税務署に提出します。ただし「法人設立届出書」に消費税の新設法人に該当する旨を含む所定の事項を記載して提出している場合は、この手続きを省略できます。
課税事業者になる際に簡易課税制度を選択する場合
免税事業者から課税事業者となるにあたり簡易課税制度を選択するときは、課税事業者になる届出のほかに簡易課税制度を選択する届出も必要です。適用を受けようとする課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を作成し、所轄の税務署に提出します。なお簡易課税制度の適用を受けると、その後2年間は一般課税制度へ変更できません。
また、簡易課税制度を選択できるのは基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者です。簡易課税制度の届出をしても、基準期間の売上高が5,000万円を超える課税期間は簡易課税制度が適用されません。
【参考ページ】
No.6629 消費税の各種届出書|国税庁
免税事業者へのインボイス制度の影響と必要な対応
2023年10月1日からインボイス制度が始まりました。インボイス制度は消費税に関する制度のひとつであり、免税事業者にも影響を及ぼす可能性があります。ここからは、インボイス制度の概要と設定された背景、インボイスを発行するための要件を整理してから、免税事業者への具体的な影響と必要な対応をみていきましょう。
インボイス制度とは
インボイス制度をひと言で表すと、請求書や領収書など商品の価格や消費税が書かれた書類に関する制度です。そもそもインボイスとは適格請求書ともよばれ、一定の要件を満たした請求書等を指します。
ここで一般課税での消費税の算出方法を思い出してみましょう。
一般課税では売り上げにかかった消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて納税額を算出します。納税額の算出において仕入れにかかった消費税額を差し引くことを仕入税額控除といいます。インボイス制度が始まると、インボイスがなければ仕入税額控除を適用できません。商品の買い手は売り手から発行してもらったインボイスの保存によって仕入税額控除を適用できるようになります。また商品の売り手も交付したインボイスを保存しておく必要があります。
インボイス制度が設定された背景
インボイス制度設定の背景にあるのは2019年10月の消費税率引き上げと軽減税率の導入です。税制の改正によって10%と8%の2種類の消費税率が混在することとなりました。消費税の納付額を正しく算出するためにはどの取引(商品)にどちらの税率が適用されているかを正確に把握する必要があり、税理事務の煩雑化を招きました。
この状況を改善するため、従来の請求書等の内容に加えて消費税率や消費税額などを明記するインボイス(適格請求書)の制度を導入し、正確な納税額を計算する負担を軽減させようというわけです。
インボイス(適格請求書)を発行するための要件
インボイスを発行できる事業者は、税務署長から登録を受けた「インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)」のみです。また、インボイス発行事業者の登録を受けられるのは課税事業者です。つまり、免税事業者がインボイスを発行するためには、課税事業者に移行し、インボイス発行事業者の登録を受ける必要があります。このとき、課税事業者であれば、一般課税または簡易課税制度のどちらを選択していてもかまいません。
インボイス発行事業者の登録を受けるとインボイスを発行できるようになります。インボイスの記載内容は、従来の請求書等の内容に3項目が追加されます。
従来の請求書等の記載事項
- 請求書の発行事業者名
- 取引年月日
- 取引の内容(軽減税率の対象品目はその旨も明記)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 書類の交付を受ける事業者名
インボイスの記載事項
- 従来の請求書等の記載事項
- 【追加】インボイス発行事業者の登録番号
- 【追加】税率ごとに区分して合計した対価の額に適用税率を付記
- 【追加】税率ごとに区分した消費税額の合計
インボイス制度が免税事業者に与える影響
インボイス制度の大きな特徴は、制度導入後はインボイスがなければ仕入税額控除が適用できなくなる点です。しかしインボイスの発行は登録を受けた課税事業者に限られ、免税事業者はインボイスを発行できません。したがってインボイス制度が始まると、免税事業者は取引先から継続契約の解除や値下げを求められる可能性があります。また新規の契約を受注するハードルも高くなるかもしれません。
免税事業者から仕入れを行う課税事業者は、インボイスの発行を受けられないために仕入税額控除ができません。よって控除できない消費税額分の負担が増えてしまいます。負担増を避けるため、仕入れ先である免税事業者に対して値引きの要求や契約解除を打診するかもしれません。
取引先に対して契約に関する相談や交渉はできますが、あまりに行き過ぎた要請や強要は独占禁止法や下請法等において問題となるおそれがあります。また、課税事業者が新しい仕入れ先を探す際には、インボイスを発行できない免税事業者は候補から外されることも考えられるでしょう。
上記のような影響が考えられますが、すべての免税事業者がインボイス発行事業者になる必要があるとは限りません。あくまでも任意ですから、事業の状況やインボイス制度の影響などをふまえたうえで、最終的には経営者の判断に委ねられます。
免税事業者がインボイス発行事業者への移行を判断するポイント
では、免税事業者がインボイス発行事業者に移行するかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。難しい課題ですが、たとえば、商品の販売先の事業者区分を手がかりに考えてみるなど、いくつかのヒントはあります。ここでは3つの場合を紹介しますが、個々の事業展望や事業規模などによって適切な対応は異なります。あくまで目安として捉えてください。
商品の販売先がおもに消費者または免税事業者の場合
商品の販売先の大半を一般消費者が占める場合、インボイス発行事業者になる必要性は低いといえます。なぜなら一般消費者や免税事業者は仕入税額控除を行わず、インボイスを必要としないためです。
たとえば習いごとの教室やサロンなどを営む免税事業者は、インボイス発行事業者にならなくても問題が生じにくいでしょう。
商品の販売先がおもに規模の大きな課税事業者の場合
売上高が5,000万円を超えるような大企業は簡易課税制度を選択できず、一般課税で消費税を計算しています。したがって仕入税額控除を行うためにインボイスが必要です。建設業や製造業などをはじめ大規模な課税事業者を販売先に持つ免税事業者はインボイス発行事業者への移行を検討したほうがよさそうです。
商品の販売先に一般消費者や免税事業者と課税事業者が混在している場合
この場合は課税事業者への売り上げの多寡や、販売先の課税事業者のうち簡易課税制度を選択している事業者の割合などから総合的に判断する必要があります。課税事業者といっても簡易課税制度を選択している場合は、みなし仕入率によって納付税額を算出するためインボイスがなくても仕入税額控除を適用できます。
ですから、売上高のうち課税事業者への販売の割合はどれぐらいか、そのうち簡易課税制度を選択している事業者への販売はどれぐらいかを考えてみましょう。またインボイス発行事業者となった際の事務負担、消費税の支払いによる金銭的な負担等も考慮しましょう。どうしても判断が難しい場合は税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
インボイス発行事業者になるための手続き
インボイス発行事業者になるには税務署からの登録が必要です。「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出し、審査を通過し登録が承認されると「登録番号通知書」が交付されます。登録番号通知書は失くさないように保管しておきましょう。
申請書の提出方法はe-Taxによる提出と書面による提出の2種類です。
e-Taxを使ったインターネット上での提出は、質問に回答する形で必要事項を入力していくだけで申請手続きを行えます。e-Taxにはパソコンやスマートフォン、タブレットから利用可能です。書面で提出する場合は、登録申請書に必要事項を記入して「インボイス登録センター」に郵送します。窓口への直接持参は受け付けていないため、注意が必要です。
登録申請の手続きを終えたら、現在発行している請求書等の様式をインボイス制度の記載事項に合わせて変更します。必要に応じて販売管理システムもインボイス対応のものに入れ替えます。最後に、取引先にインボイス発行事業者となった旨を連絡しておくと良いでしょう。
【参考ページ】
インボイス制度の概要|国税庁
令和5年10月からインボイス制度が開始! 事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A | 公正取引委員会
中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策(第3版)
インボイス制度開始後の経過措置
インボイス制度の開始を機に課税事業者となった事業者や、免税事業者から仕入れを行っている事業者については、消費税の申告・納税にかかる負担が増えるでしょう。制度の導入による負担を軽減するために、複数の経過措置が設けられています。ここでは主な3つの経過措置を紹介します。
登録申請に関する経過措置
通常、インボイス発行事業者になるための登録申請ができるのは課税事業者です。免税事業者がインボイス発行事業者になるには、まず課税事業者になる手続きを踏まなければいけません。
しかしこの経過措置によって、免税事業者は課税事業者になる手続きを省いてインボイス発行事業者への登録申請ができます。
対象者
- インボイス発行事業者への登録申請を行う免税事業者
対象期間 - 2023年10月1日から2029年9月30日のあいだに属する課税期間
免税事業者が「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、対象期間中にインボイス発行事業者の登録を受ける場合、通常は必要である「課税事業者選択届出書」の提出が免除されます。登録日以降は消費税の申告および納税義務を負いますので注意しましょう。
2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)
免税事業者がインボイス発行事業者になると、消費税の申告・納税に関する事務的な負担や金銭的な負担が増えるでしょう。こうした負担を軽減するために、納税額を、売り上げにかかった税額の2割とする激変緩和措置が講じられます。
対象者
- インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった事業者
対象期間 - 2023年10月1日から2026年9月30日を含む各課税期間
2割特例を適用すると、売上高や収入を税率ごとに把握するだけで簡単に消費税を申告でき、仕入れや経費を集計する必要がありません。
たとえば売上高が800万円(消費税額80万円)、経費が200万円(消費税額20万円)のサービス業を営む事業者の消費税申告を考えてみましょう。
一般課税で計算した場合の納税額
- 80万円-20万円=60万円
簡易課税制度で計算した場合の納税額(みなし仕入率は50%) - 80万円-(80万円×50%)=40万円
2割特例を適用した場合の納税額 - 80万円×2割=16万円
計算方法が簡潔かつ納税額も抑えられるため、事務負担や金銭負担が大幅に軽減されます。なお特例の適用にあたって事前の届出は不要です。消費税を申告する際、申告書に2割特例の適用を受ける旨を明記するだけで特例を適用できます。
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
インボイス制度が始まると、免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除の適用対象外となります。しかしこの経過措置によって、一定期間は免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除が認められます。課税事業者はインボイス制度の開始による税負担の急な増加を防げ、免税事業者にとっても即座に取引先から契約を打ち切られるようなリスクを抑えられるでしょう。
対象者
- 免税事業者から仕入れを行い、仕入税額控除を適用したい事業者
対象期間 - 2023年10月1日から2029年9月30日まで
対象期間中は免税事業者からの仕入れであっても、仕入れ税額の一定割合を控除できます。なお、前半の3年間と後半の3年間で控除できる割合が異なります。
- 2023年10月1日から2026年9月30日まで…仕入れ税額相当額の80%を控除できる
- 2026年10月1日から2029年9月30日まで…仕入れ税額相当額の50%を控除できる
また、この経過措置の適用を受けるには次の2点が必要です。
インボイス制度導入前の請求書等と同様の内容が記載された請求書等
経過措置を受けることを記載した帳簿の保存
法人成りで免税事業者になる要件(参考)
小さく始めた事業がそれなりの規模になってきたとき、頭をよぎるのが法人成りです。なかには法人化を目指して事業を始める人もいるかもしれません。ここからは、課税事業者である個人事業主が法人成りで免税事業者になれるのかどうか、また法人が免税事業者であるための要件や、法人成りの際に気をつけたいことを概説します。
なお、ここではインボイス制度への対応として法人成りを勧める趣旨はありません。あくまでも法人成りに関する参考情報としてご理解ください。
法人が免税事業者であるための要件
免税事業者の要件は個人でも法人でも変わりません。免税事業者であるための要件をおさらいしておきましょう。
- 基準期間における売上高が1,000万円以下
-> 基準期間…個人事業主は前々年、法人は前々事業年度 - 特定期間における売上高が1,000万円以下
-> 特定期間…個人事業主の場合は前年の1月1日~6月30日、法人の場合は前事業年度の開始日以後6カ月 - その事業年度の基準期間がない法人のうち、事業年度の開始日における資本金または出資金の額が1,000万円未満
ポイントとして、新たに設立された法人は1期目と2期目については基準期間が存在しません。つまり資本金が1,000万円未満の新規設立法人かつ、設立1年目の最初の6カ月で売上高が1,000万円を超えなければ、原則として2年間は免税事業者となります。
個人事業主が法人成りする場合、法人成りする前の個人と、法人成りしたあとの法人は別の事業者であるとみなされます。したがって法人成りする前に課税事業者であったとしても、法人成りすれば当初2年は基準期間が存在しないこととなり、納税義務は生じません。
法人成りする際に気をつけたいこと
事業の状況によっては個人事業主でいるよりも法人成りしたほうが節税につながるかもしれません。また社会的信用度の高まりも期待できるでしょう。しかし気をつけたい点も大きく3つあります。税金の支払い義務、社会保険への加入、そして事務作業の負担増です。
税金の支払いについては、個人事業主であれば赤字の場合には納税の義務を負いません。ところが法人になると赤字の場合でも法人住民税を納めなければいけません。また社会保険への加入も必須です。法人ではすべての役員と正社員、一部のパートタイマーは厚生年金と健康保険への加入が義務づけられます。たとえ役員1人しかいなかったとしても、社会保険には必ず加入します。社会保険に関する事務も含め、法人は個人と比較し全体的に事務作業が増えます。給与計算をはじめとする日々の作業が増えるほか、決算書類も個人の確定申告より多く必要です。
消費税だけでなく所得税や社会保険、手続きや事務の負担など、事業全体をみて判断しましょう。
【参考ページ】
No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき|国税庁
個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定|国税庁
個人事業と法人のどちらがよいか | 起業マニュアル | J-Net21(中小企業ビジネス支援サイト)
免税業者に関するよくある質問
免税事業者とは、消費税の納付を免除されている個人や法人を指します。基本的な要件は基準期間および特定期間における売上高が1,000万円以下であることです。ただし免税事業者である要件を満たしていても、課税事業者となる選択をすることも可能です。
国内で行われるほとんどの取引は消費税の課税対象です。商品販売やサービス提供によって対価を得る場合、免税事業者であっても、販売先から受け取る対価には消費税が含まれます。原則として、メニュー表やホームページなどであらかじめ商品価格を表示する場合は、消費税込みの価格を表示しておかなければならない総額表示の義務があります。
一概に対応する必要があるとは言い切れません。商品の販売先が一般消費者や免税事業者なのか、課税事業者なのかによっても適切な対応が変わってきます。事業の状況や今後の展望、事務面および金銭面での負担などいろいろな観点からよく考慮して判断することが大切です。
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